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◆非米側が作る新世界秩序 [田中宇]

要約:非米側が作る新世界秩序【2023年11月10日】ウクライナ戦争がなかったら、非米側の台頭や多極化は、あと25年ぐらいかかっただろう。開戦により、世界の非米化と多極化がものすごく早回しされた。だからこの戦争が起こされた。国際政治的にも、非米側が米国側のやり方を拒否する状況が増え、米覇権の影響力は米国側(米欧日)だけへと縮小した。》

ダイジェスト:欧日が米覇権自滅を無視し、米国と一緒に中露を敵視し続けたのは、欧日が戦略立案の根幹にある現状分析の部分まで対米従属の米傀儡になっており、米国自身が自国の覇権低下を無視するので欧日も無視し、米国が中露を敵視するので欧日も敵視する構造になっているからだ。米欧日の言論界や学術界では、米覇権の低下を指摘すると妄想扱いされ、発言者は権威を剥奪される。米欧日の人々が米国の覇権低下に気づかない構造が作られている。》《リーマン危機後、しだいに準備されていった非米側の世界体制は、2022年2月末のウクライナ開戦によって米国側と劇的に分離され、非米システムが急速に形成され始めた。米国側(米欧日)はロシアを徹底的に経済制裁し、ロシアと米国側の経済関係が完全に断絶した。中国は、BRICSや発展途上諸国を引き連れてロシアの側についた。米国は、ロシアだけでなく中国との経済関係の断絶策も進め、世界経済は米国側と非米側に分裂した。

非米側の国際秩序は「中国覇権」でない。印度は、中国と国境紛争で対立し、米国の中国包囲網策(インド太平洋)にゆるく参加しつつ、BRICSで活躍し、ロシアと旺盛に貿易している。ブラジルは少し前まで親米政権で、BRICSを軽視していた。非米世界は、国際紛争があってもそれを抱えたまま、可能な範囲で協調体制を作っていく。米欧は善悪二元論で教条的だが、非米側は現実主義だ。米覇権衰退とともに世界を席巻しつつある非米的な国際秩序は単独覇権型でなく、ゆるやかな多極型だ。》

中東ではイスラエルとハマス(イラン)とのガザ戦争が激化しているが、イスラエルはいずれ譲歩に転じ、パレスチナ国家創設の中東和平が再開され、中東が安定していく。今のガザ戦争は、中東を安定化に転換するために起こされた。この転換が進むまで、イスラエルの後ろ盾である米国の覇権が延命していることが必要だ。そうでないと、後ろ盾を失ったイスラエルがイスラム側に追い詰められ潰されていき、最後の手段として核兵器を使って中東や地中海地域を破壊しかねない。》《中露はサウジ・イラン・トルコなど中東の地域大国と協力して、非米化した中東でイスラエルが生きていけるよう、米覇権の延命を容認しつつ、イスラエルとハマスとの停戦、中東和平の再開へと動いている。この策が成功すると、イスラエルは中露に感謝し、金融や諜報の技能に長けた世界のユダヤ人たちが非米側の新世界システムの発展に協力するようになる。

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非米側が作る新世界秩序

2023年11月10日  田中 宇 

「新たな地政学的状況下におけるグローバルサウス」という議題について考える必要が生じた。配信記事としても興味深いと思ったので、今回はこれでいく。この議題でまず重要なのは、グローバルサウス(以下サウス)について考えること。その中で、新たな地政学的状況について考えていく。

サウスが今のように国際政治力を持つようになった源流は、1950-60年代に中国がソ連と対立する中で、1955年バンドン会議以来の「非同盟諸国」の国際結束を利用したこと。冷戦に横槍を入れようとしたバンドン会議は、戦後初めて発展途上国が団結による国際政治力を発揮しようとした動き。中国は参加、ソ連は不参加だった。

中国は国連安保理常任理事国(UNP5)の一つであり、その立場を利用し、国連で途上諸国を代弁する戦略をとった。途上諸国は国際政治的に中国の傘下に入った。それで生まれたのが、中ソ対立最盛期1964年に作られたG77(G77+中国とも呼ばれている)。

中国が途上国の代弁者になるG77は、現在まで、中国の国際政治戦略の中心。たとえば中国は、この戦略を使って2009年のCOP15で、地球温暖化対策の世界的な主導権を米国(オバマ)から譲渡してもらった。 (地球温暖化めぐる歪曲と暗闘

ソ連崩壊後、ロシアはしばらく国力が衰え、世界戦略が後退していた。中国が途上諸国を率いてやり合う相手はロシアでなく覇権国の米国になった。1990年代のクリントン政権時代、米国は安保軍事より経済の世界戦略を重視したので、米中関係が好転していた。それは2000年のITバブル崩壊や2001年の911テロ事件で逆転し、米国の主戦略は安保軍事面で脅威となりそうなすべての国を潰そうとする単独覇権主義に転換した。

冷戦後の米国の単独覇権主義戦略の素案は、1990年代半ばのハンチントンの「文明の衝突」理論に始まる。中国とロシアは、米国に敵視される国になった。これに呼応して2000年に中露は、すべての国境紛争を解決してそれまでの対立を解き、中露の間に位置する中央アジア諸国も入れて上海協力機構を作り、米国に潰されぬよう結束を開始した。

米国は911後、単独覇権主義を振りかざしつつアフガニスタンやイラクに侵攻して失敗した。イラク戦争は、開戦の大義(イラクの大量破壊兵器問題)が米国による捏造とわかって米国の信用が失墜し、政治安保面の米覇権崩壊が始まった。2008年のリーマン危機は、ドルや米経済覇権の崩壊の始まりとなった(ドルはその後FRBのQE策によって延命)。

米国は自らの覇権の崩壊傾向を無視して、中露など敵性諸国を潰そうとする単独覇権戦略を続けた。米国は弱体化しても中露敵視をやめなかった。イラン核開発の濡れ衣、シリア内戦、リビア潰し、ウクライナ転覆(2014年)など、世界を破壊する政権転覆や内戦化をやり続けた。中露は、米国と再び協調する道をあきらめ、米国と距離を置く他の諸大国と結束し、米国に介入されない新世界秩序、非米型の世界システムを作る戦略に移行せざるを得なかった。

この流れの中で、2008年からBRICSが形成された。中国は、独自の広域経済圏として一帯一路を開始したり、アジアでの国際金融戦略として、米国主導のADBに対抗しうるAIIBを2013-15年に創設したりした。ロシアも2014年にEAEUを作った。

欧州や日本は、米覇権の自滅傾向を無視して対米従属を続けた。欧日が自滅していく米国から距離をおいていたら、中露が欧日と結束して非米型の新世界システムを作る道があり得た。経済力がある欧日先進諸国と組めれば、中露も非米型の新システムを作りやすかった。だが欧日は対米従属をやめず、むしろ米国と一緒になって中露を敵視する姿勢をとり続けた。中露は。欧日をあきらめ、印度ブラジルなど非米的な諸大国と組まざるを得なかった。

欧日が米覇権自滅を無視し、米国と一緒に中露を敵視し続けたのは、欧日が戦略立案の根幹にある現状分析の部分まで対米従属の米傀儡になっており、米国自身が自国の覇権低下を無視するので欧日も無視し、米国が中露を敵視するので欧日も敵視する構造になっているからだ。米欧日の言論界や学術界では、米覇権の低下を指摘すると妄想扱いされ、発言者は権威を剥奪される。米欧日の人々が米国の覇権低下に気づかない構造が作られている。

グローバルサウスは中露結束からBRICSへと拡大して非米側諸国となり、国際政治的な発言力を増大した。BRICSは経済面の新世界システム構築も目指したが、こちらは既存の米国中心のシステムがまだ便利なので、なかなか進まなかった。米金融システムがリーマン危機で潰れていたら、非米型の新システムの立ち上がりも早かっただろうが、米金融バブルはFRBのQE策で延命し、米欧日の株価は反騰した。米国側の金融システムが再び揺らぎだしたのは、2021年にインフレがひどくなってからだ。

リーマン危機後、しだいに準備されていった非米側の世界体制は、2022年2月末のウクライナ開戦によって米国側と劇的に分離され、非米システムが急速に形成され始めた。米国側(米欧日)はロシアを徹底的に経済制裁し、ロシアと米国側の経済関係が完全に断絶した。中国は、BRICSや発展途上諸国を引き連れてロシアの側についた。米国は、ロシアだけでなく中国との経済関係の断絶策も進め、世界経済は米国側と非米側に分裂した。

ウクライナ戦争がなかったら、非米側の台頭や多極化は、あと25年ぐらいかかっただろう。ウクライナ開戦により、世界の非米化と多極化がものすごく早回しされた(だからこの戦争が起こされた)。国際政治的にも、サウス(非米側)が米国側のやり方を拒否する状況が増え、米覇権の影響力は米国側(米欧日)だけへと縮小した。80億の人類のうち、米覇権の支配下にあるのは10億人ほどで、残りは非米側だ。GDPも非米側が米国側を抜きつつある。

ウクライナ戦争で、本当はロシアが勝っているのに、米諜報界は、ロシアが負けてプーチン政権が間もなく崩壊するとうウソを流してきた。欧州は、ウソを信じ込み、ロシアからのエネルギー輸入を停止したので経済危機に陥っている。欧米は、温暖化対策によって石油利権を世界的に放棄しており、今回の非米側との経済断絶によって、世界の石油ガス利権の大半が非米側に属し、米国側が持つのは金融バブルだけになっている。いずれFRBの延命策が尽きてドルなど米金融システムが崩壊し、世界経済の中心は非米側になる。

米国と、G7やNATO、アングロサクソン(豪NZ)といった米傀儡諸国が米国側を構成し、その他の諸国が非米側だ。米国の情報歪曲に洗脳されているのが米国側で、それ以外の国が非米側である。米国側でも経済的に中国への依存が強い韓国は、対米従属だが中露との敵対を避けようとしている。日本も似た方向だ。欧州では厭戦機運が強まるほど、米国からのロシア敵視強要に反対する有権者が増え、ハンガリーやスロバキアのように実質的に非米側に転向する国が増える。

非米側の国際秩序は「中国覇権」でない。印度は、中国と国境紛争で対立し、米国の中国包囲網策(インド太平洋)にゆるく参加しつつ、BRICSで活躍し、ロシアと旺盛に貿易している。ブラジルは少し前まで親米政権で、BRICSを軽視していた。非米世界は、国際紛争があってもそれを抱えたまま、可能な範囲で協調体制を作っていく。米欧は善悪二元論で教条的だが、非米側は現実主義だ。米覇権衰退とともに世界を席巻しつつある非米的な国際秩序は単独覇権型でなく、ゆるやかな多極型だ。

非米側は、自分たちの新たな国際経済システムの構築に、試行錯誤しつつ時間をかけている。非米的な貿易体制は、ドルでなく人民元やルーブルなど多通貨で、各国の中央銀行が創設したデジタル通貨を多用するものだが、詳細が公開されていない。米国側から妨害されるのを防ぐためなのか、隠然と非公式に試験運用されている。

非米側は、新システムを構築する時間を作るため、米金融バブルの維持を容認し、米国の覇権延命を黙認している。中国が米国債を一気に売れば米金融崩壊を誘発するかもしれないが、中国はそれをしない。米国側のマスコミは、覇権の衰退傾向を無視する歪曲報道をしているが、非米側もそれを声高に訂正しない。ウクライナ戦争の長期化も、米国側と非米側の世界分割を固定化し、非米側が新システム構築に時間をかけることを可能にしている。

当面、米国側の金融バブルは維持されるが、非米側が新システム構築の試行錯誤を終え、新システムの運用が定着するころに、米国の金融バブルと覇権が崩壊し、非米側のシステムが世界の中心に位置するようになる。

中東ではイスラエルとハマス(イラン)とのガザ戦争が激化しているが、イスラエルはいずれ譲歩に転じ、パレスチナ国家創設の中東和平が再開され、中東が安定していく。今のガザ戦争は、中東を安定化に転換するために起こされた。この転換が進むまで、イスラエルの後ろ盾である米国の覇権が延命していることが必要だ。そうでないと、後ろ盾を失ったイスラエルがイスラム側に追い詰められ潰されていき、最後の手段として核兵器を使って中東や地中海地域を破壊しかねない。

中露はサウジ・イラン・トルコなど中東の地域大国と協力して、非米化した中東でイスラエルが生きていけるよう、米覇権の延命を容認しつつ、イスラエルとハマスとの停戦、中東和平の再開へと動いている。この策が成功すると、イスラエルは中露に感謝し、金融や諜報の技能に長けた世界のユダヤ人たちが非米側の新世界システムの発展に協力するようになる。 



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