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夏山かほる『 新・紫式部日記』 [源氏物語]

新紫式部日記.jpgそもそも詩吟の平謙雄先生の奨めで始めた声を出しての夫婦の読書(「「声に出して読みたい日本語」全6冊読破」https://oshosina2.blog.ss-blog.jp/2020-06-07)。毎朝ラジオ体操の後、『谷崎源氏』(中央公論社)を大塚ひかり訳『源氏物語』(ちくま文庫)を手引きに、家内と読んでいる。2020年の暮れから始めて、今ようやく宇治十帖の始まり「橋姫」。全1692頁の1226頁。まだ72%。10分〜15分の朝の楽しみ。

そんな折、日経連載「陥穽ー陸奥宗光の青春」の辻原登氏が選考委員を務めた日経小説大賞受賞作、夏山かほる著『 新・紫式部日記』を知ってKindle版で一気に読んだ。

手に汗握るともいえるクライマックスシーンで道長の妻倫子が藤式部(紫式部)に向けて発する言葉、《あなたは源氏の物語の中で、あわれなる人の情は止むにやまれぬものだということを、幾度も描いているではありませぬか。止むにやまれぬ思いが人の心を動かすのです。人の性とはそういうもので、それを失ったら人ではなくなるのかもしれませぬ》 (p.99) それぞれの「止むにやまれぬ思い」に納得させられながら、史実とフィクションを交差させて織りなす物語世界に引き込まれる。その基調をなすのが「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな」。紫式部の曽祖父藤原兼輔の歌。

漠然と読んできた『源氏物語』が、俄然この著によってリアリティをもって歴史の中に息づいてきた。

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第11回日経小説大賞受賞! (選考委員:辻原登・髙樹のぶ子・伊集院静)

『源氏物語』を書いた紫式部の一代記。「紫式部日記」が実在の作品であるだけに、あえて「新」とタイトルにつけフィクションを紡ぎ上げたところに、作者の周到な企みがうかがえる。
本作には最新の源氏物語研究の成果が活かされている。紫式部の生涯や、『源氏物語』誕生秘話を描いた著作は、専門家によるとそれほど珍しくはない。しかし、本作は、平安時代においては、物語を書く行為そのものが政治性をおびていたことを明らかにするところが新しい。
「日記文学の傑作、しかも『源氏物語』の作者の日記に新たな日記を捏ち上げ、ぶつけるという、これほどの大胆不敵はない。パロディならともかく、真正面からオーソドックスに、とはハードルが高過ぎる。
しかし、作者は鮮やかにそのハードルを跳び越え、極上の宮廷物語を物した。『源氏』を構成の中心に据え、それを下支えする本物の「紫式部日記」、それに被せるように架空の「日記」、そしてもう一つの物語『伊勢物語』を、有機的に、歯車のように嚙み合わせ、重層的な展開が可能になった。『源氏物語』そのものが、一層の輝きを放って読者に迫って来るという功徳も齎された」(辻原登氏選評より)

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