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『上杉鷹山 』(小関悠一郎)を読む(1)第一の改革 [上杉鷹山]

小関「上杉鷹山」.jpgいい本を読んだ。小関悠一郎著『上杉鷹山 「富国安民」の政治』(岩波新書 2021.1)。

《鷹山が当初から藩政改革に燃えて藩主に就き、鮮やかな政治手腕によってリーダーシップを発揮したのかといえば、それは必ずしも自明のことではない。・・・現在の研究ではむしろ、藩士各層がいかにして改革の担い手になりえたのか、学問・知識の受容と現実の応用の過程を解明する方法がクローズアップされてきている。/そうであるとすれば、改革を担った家臣たちの教養・考え方や行動、彼らと鷹山との関係にもっっと光を当てることが必要なのではないか。そうすることではじめて、鷹山の改革とその理念をくっきりと読み解けるのではないか。》(11p)この意図をもって鷹山公の改革を三段階に分ける。すなわち竹俣当綱中心の「明和・安永改革」、莅戸善政中心の「寛政改革」、そして善政の死後を継いだ莅戸政以の「第三の改革」。前二つの改革を前・後半とするのが通例のところ、この著では「第三の改革」を加えてそれを重視する。《鷹山公ばかりでなく、米沢藩自体も「富強」藩として幕末期まで評価され続けたのだとすれば、二つの改革に続く、上杉鷹山熟年期の反省の展開にも目を向けなければならない。・・・それは、米沢藩政改革の歴史的意義を解明する手がかりでもある。従来の鷹山論から抜け落ちてしまった、19世紀初頭、鷹山が50代に差し掛かる時期に開始された”第三の改革”の実相を明らかにし、それが持つ意義を考えてみたい。》(19p)イザベラバードがこの地に「東洋のアルカディア」を見たのは、第三の改革あってのことだった。

竹俣当綱像.jpgまず「第一の改革」のリーダー竹俣当綱(1729-1793)。竹俣が江戸家老として江戸藩邸に入った時、その前年秋月家から上杉家へ移ってまもない鷹山公(1751-1822)11歳。《何度も鷹山の部屋に忍び込んで、藩主としての心構えから米沢藩の歴史・風土の至るまでを説き聞かせた。目の前の少年が立派な上杉家の当主に成長してくれるのが、とにかく心配で仕方なく、常々気を揉んでいたのである。》(56p)細井平洲登用について藩主重定説得に力を尽くすことになる。著者は、竹俣の根底に荻生徂徠(1666-1728)の思想を見る。徂徠の経世論、《「どれほど自分の心身を修めても、国家を治める方法を知らなければ全く無益である」(『徂徠先生答問書』)。徂徠はさらに、為政者は自身の人格的完成よりも政治的な結果を求めることが重要だという、朱子学批判に基づいて編み出した観点から、現実の政治・社会の立て直しを目指した経世済民論を次々と打ち出した。》(66p)竹俣は「実行もなくて言葉のしげるをいましめ給ふことなり」と余白に記したノートがあるという。政治におけるリアリズムを見据える目をもって若き鷹山公を教え導き、藩の改革に取り組んだのだった。竹俣が鷹山公と共に学んだのが、徂徠の高弟太宰春台(1680-1747)の『産語』。《従来の儒学者の議論の難点は、経済の問題を脇に置いて、専ら礼儀・道徳の問題を論じてきたところにある。これに対して春台は、経済の問題を正面に据え、「富国強兵」を論じて、経世済民に深い見識を示した》(76p)。著者は春台の「富国強兵」論を《日本史上はじめて》《日本思想史上、画期的な議論》(77p)と評価する。竹俣は春台の思想から「地の利を尽くす」ことの肝要なることを読み取る。《君主の治める国土には当然、農耕に適さない土地もある。だが、一見、利用価値が低いように見える土地であっても、必ず何らかの地力(生産力)を備えている。そう見れば、土地の力は無尽蔵なのだ。そこから産出された各種の産物を他領に移出すれば、人民に有用、かつ国家の利益ともなる》(81p)。竹俣はまた「富国強兵」策を《「民利」「民冨」を実現するための政策として読み替え》(83p)て改革の理念とした。このことは《米沢藩という一藩に限られたことでゃありながらも、近現代にまで続く「富国」の政治目標化の端緒を築いたという意味で画期的なことだったのである。》(84p)幕末にあって「諸藩より来て、法を取る者多し」、鷹山公治世を学び取りに来る者ひきもきらず、また「明君鷹山公」について記す書も数多。窮乏の極みにあった米沢藩救済の使命を担う竹俣当綱あってのことだった。森平右衛門誅殺、さらに七家騒動を乗り超えての改革遂行と、文字通り命懸けの生き様であったにちがいない。若き鷹山公への薫陶、並々ならぬものがあったはずである。(つづく)
【追記 2021.4.24】
昨日(4/23)米沢に行く用事ができたので、上杉博物館に行って「開館20周年記念特別展 上杉鷹山の生涯〜藩政改革と家臣団〜」を観てきました。1時間近く居たけれども、平日ということでだれも観覧者なしでした。
file:///Users/takaoka/Downloads/chirashi-1.pdf

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