『戦死者日暦』（佐藤宏一）

そもそも『女大関若緑』の本は、女相撲発祥の天童高擶在住佐藤宏一さんから、佐藤さんの高校の同級である南陽のNさんに届き、Nさんが私に「『宮内よもやま歴史絵巻』の参考になれば」と持って来てくれたのだった。それが2年ぐらい前だったが、今年の春ようやく絵巻の一巻として公開、さらに9月に山形新聞に「女大関・若緑」https://oshosina2.blog.ss-blog.jp/2020-09-08が大きく取り上げられたのを見て、宮内に飛んで来られたのが佐藤さんだった。公民館から「天童の方が新聞を見て来られたんだけど」と電話があったので、佐藤さんに違いないと直感、粡町にお迎えして絵巻を見ていただいた。その時、大東亜戦争の戦死者数についての本を12月に刊行予定とお聞きした。すごいことをやっておられると驚いたのだが、その本が届いた。発行日は12月8日。80回目の開戦の日だ。早速目を通させていただいた。すごい本だ。紹介したい。→『戦死者日暦』

《100名の戦死には100通りの悲劇がある。・・・戦後生まれ、まして平成生まれの戦争を全く経験しない人々に戦死者をどのように伝えたなら悲惨な戦争の実態に迫れるかを考えてみた。戦死者数を単なる統計から一人の兵士の戦死の悲劇にまで少しでも近づけるための方便として戦時中の日々にどのような形の戦死があり、どれだけの戦死者があったかを太平洋戦争の開戦日から終戦までの1347日を1日単位の日暦で記録することに思い至った。310万名の「統計」に埋もれた戦死者を「見える化」するためである。》（5p）この思い立ちがとにかくすごい。いったいどうやって調べるんだろうか。その先を思うと気が遠くなる。《先の戦争に関する戦史、戦記。従軍記類はおびただしく刊行されているにもかかわらず、日々の戦死者数について詳しく記載されているのは多くないことがだんだんわかってきた。》（18p）そこでどうしたか。《日暦に戦死者を寄せるための資料の渉猟と読み込みは「戦死者集まれ！」と自分自身に念力を掛けながらの思いのほか手ごわい作業であった。》（18p）ここを読んで「戦死者たちが動き出したに違いない」と思った。きっと戦死者との協働作業であったのだ。《戦死者を日暦に寄せる作業が進むにつれて壮絶な戦死の修羅場がこれでもかこれでもかと出て来て何百人、何千人の戦死も日常茶飯事であることを知らされた。この抜きがたい戦争の悲劇を多くの人々に知ってもらうためにも1日単位の日暦で戦死者を表現することの意味合いに自信を持つことが出来た。》（19p）戦死された方々が佐藤氏に「憑いた」結果の仕事であったのではないか。《真実は細部に宿ると言う箴言を思い出している。統計に埋もれていた戦死者を「見える化」することによって戦争についてこれまでとはまた違った景色を見つけてほしい。》（19p）戦死された方々の切なる願いなのではないか。月2回熊野大社にある東置賜の戦死者を祀る「熊野招魂社」に参り、戦死者に心を寄せることにしている。戦死者たちの霊が動き出してこの本が生（な）ったことを佐藤さんの文章は伝えている。

《武器弾薬を大量に投じても最小限の戦死者にとどめようとした連合軍から見れば、いくら勇敢な戦士であれ精鋭部隊であっても敵の圧倒的な火力に向かって身体を曝す日本軍の肉弾突撃は無謀な集団自殺と変わらないと捉えられていたのではないだろうか。武器弾薬の不足を兵士の命で補う白兵戦はとりもなおさず軍人勅諭「死は鴻毛よりも軽し」の体現にほかならない。》（63p）ここを読んでいるうちになぜかウトウトして、その情景がまざまざと浮かんできたところで正気に帰った。あまりにリアルで「怖ろしい」とかを超えた感覚だ。《国は糧秣は現地自給自足と称して兵站を怠り、兵士は腹が減って戦わずに餓死した。》（72p）その数、実に140万名（推計）。《泊地空襲により司令部を転々と替え、戦艦大和をはじめ主力艦船が敵に背を向けて為す術もなく逃げ惑わなければならないのが連合艦隊のいつわざる姿であった。》（95p）

著者は、戦死者をその死の様相から、「草生す屍（白兵戦、死の行軍、傷病兵置き去り死、餓死）」「水漬く屍（軍艦・輸送船撃沈）」「十死零生（特攻）」「無辜の命（空襲、原爆、集団自決）」に分類する。そのことで死の様相がリアルに浮かび上がる。《これらのどの項目を取っても非業の死にほかならない。名誉の戦死に数倍するこれらの非業の死が戦争には伴うものだと昭和16年12月8日に想定しながら開戦に踏み切ったのだろうか。》（19-20p）

第1章「戦死者の全貌」に次いで第2章「戦死者日暦」。昭和16年12月8日の464名に始まり昭和20年8月15日の1175（+？）名まで、一日一日ごとの戦死した場とその数が214ページにわたって記される。そして最後が第3章「戦死者統計」。どの戦地にどれだけの兵員が投入され、そこで何名が命を失い、それが兵員のうち何％だったのかが詳細に記される。その戦死率の高さにただただ呆然。さらに追い打ちをかけるのが「戦死者対戦国比較統計」。日本国と対戦国のその作戦の場での戦死者数比較。その差はあまりに大きい。なにゆえに日本の戦死者がこんなに多いのか。まさに「死は鴻毛よりも軽し」、「消費」される人の命がイメージ化されたところであとがきに。《戦死者を1347日の日暦に呼び寄せる作業の過程でいろいろな戦争の現場でいろいろな戦死の様相に遭遇した。》（452p）とある。戦死者の霊が「呼び寄せ」られてこの書は生（な）った。記された「〇〇〇名」という数字の影に戦死者の一名一名が、たしかに感じ取れる仕掛けになっている。すごいインパクトだ。この著がいま世に出る意味は何なのだろうか。

アマゾンはまだ。南陽市立図書館の分をいただいているので、一両日中に置いて来ます。