日本では中国がコロナ規制を大きく緩和したのは「白紙革命のせいだ」とするのが前提になっている。ところが習近平は規制大緩和に向けてICU病床の爆発的増加を1年以上前から計画し、実現していた。

◆コロナ発生時における中国のICUベッド数

 コロナ感染重症患者の救助はICU( Intensive Care Unit=集中治療室)が最も重要だと言われているが、2020年初頭、武漢でコロナが感染拡大し始めた頃の中国のICUベッド数は、極端に少なかった。

 同時に世界のICUベッド数を比較した資料が非常に少ないので、日本の厚生労働省医政局が令和2年(2020年)5月6日に作成した<ICU]等の病床に関する国際比較について>を参考にし、そこには中国のデータがないので中国に関しては『2020中国衛生健康統計年鑑』のデータから計算すると、以下のようになる。

    アメリカ:34.7/10万人    ド イ ツ:29.2/10万人    日  本:13.5/10万人    イタリア:12.5/10万人    フランス:11.6/10万人    スペイン:9.7/10万人    イギリス:6.6/10万人    中   国: 4.1/10万人(2020年発表の2019年末データ)

 中国は毎年年末に『中国衛生健康統計年鑑』で、その前の年のデータを発表するが、2020年末発表の2019年末データは、ちょうど武漢でコロナが発生した直前の時期と重なり、この時点では中国は圧倒的に少ないことがわかる。

 拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第五章 ゼロコロナ政策を解除すると死亡者多数】に書いたように、中国の医療資源の欠如により、少なくとも2022年初頭の段階でゼロコロナを全面解除してしまうと、「3ヵ月間で160万人の死者」が出ていただろうことは明らかだった。

 したがってICUベッド数の観点から見ても、ゼロコロナ政策を堅持する以外になかったのは確かだっただろう。

◆昨年12月にICUベッド数が爆発的に増加

 そうは言っても、習近平政権が絶対的なゼロコロナ政策を続けていたのかというと、そうではない。2022年12月7日のコラム<中国ゼロコロナ規制緩和は2021年1月から出ていた>に書いたように、2021年1月31日には、「中央が出した規制緩和を守れ」という趣旨の記者会見が行われており、中国は少しずつ緩和を進めてきた。

 しかし一方では、2022年12月1日のコラム<中央のコロナ規制緩和を末端現場は責任回避して実行せず――原因は恐怖政治>に書いたように、中央から下の行政レベルに行けば行くほど責任逃れのために規制を強化して、現場ではガチガチのゼロコロナ規制で動いていた。この現象を中国語で層層加碼(そうそう・かば)(ツェンツェン・ジャーマー)と呼ぶ。

 これに対して中央が痺れを切らし、「いい加減にしろ!緩和を実行しない者は逮捕するぞ!」と脅したために、「逮捕されるくらいなら実行しましょう」とばかりに現場は急に緩和を実行し始めたのである。

 このとき中央では何が起きていたのかを示す驚くべきデータがある。

 それこそが、ICUベッド数の爆発的増加だ。『中国衛生健康統計年鑑』によると(2020年に関しては一般公開していないので、年鑑を自費で購入してデータ入手)、

2018年:52,568床(3.8/10万)      2019年 : 57,160床( 4.1/10万)      2020年:63,527床( 4.5/10万)      2021年:67,198床( 4.8/10万)であったICUベッド数が、国務院聯合防疫メカニズムによると、2022年12月に突然、      2022年12月 9日:138,100床(9.8/10万)      2022年12月25日:181,000床(12.8/10万)へと膨れ上がったのである。

 2022年11月17日の国務院聯合防疫制御メカニズムによる記者会見で、国家衛生健康委員会医療応急司の司長が「われわれは指定病院でICUベッド数が総ベッド数の10%に達することを要求する」と説明している。

 コロナ大緩和策である「新十条」が発布されたのは、その1ヵ月後の2022年12月7日。さらにその2日後と20日後に、立て続けに発表されたその数値は、尋常では考えられないような増加ぶりだ。

 2021年末のベッド数と2022年末のベッド数の差は「113,802床」である。11万床以上のICUベッドを1年間で増やしたことになる。

 ICUベッド数を整備するには膨大な時間と経費と人材を必要とする。未だかつて、これだけ大量のICUベッドを1年で増設した例を見たことがない。

 全ての国のICUベッド数の推移を掌握することは困難で、上記の厚労省2020に書いてある各国データも、実は何年のデータであるかに関してはマチマチで、この情報に頼って推移を考察することはできない。

 そこで中国に関しては、2020年以外は全て年末に公開されているのでデータを入手することができたが、日本に限っても途中までしか信憑性のあるオリジナルデータが得られないので、その限られた範囲内で、「人口10万人当たりの ICUベッド数推移の日中比較」を作成することを試みた。以下に示すのが、その結果だ。