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『ビジネスの武器としての「デザイン」』(奥山清行)を読む [本]

山形の人で身近に感じてもいいはずだったのに、イタリアの高級車「フェラーリ」と言われてもピンとこなくて、なんか雲の上の人のように思っていた。その奥山さんについて知りたい事情ができて、最新著『ビジネスの武器としての「デザイン」』(祥伝社 2019/11)を手に取った。一気に読ませられた。

《「本来、デザインとは「モノ」自体のコンセプトを立案し、開発からマーケティングまで、全体の枠づくりをすべき仕事なのである」・・・「デザインとは、人間が、自分たちの生活を良くしたいと思って行なう創意工夫である。そこに「モノ」や「サービス」が生み出される」》(8p)したがって、《一連の「デザイン思考」ブームの中でつかむべき本質は、「デザイナーではない人でも真の意味でのデザインをおこなうことができる」》(11p)。この言葉でこの書は一挙に親しくなる。奥山的「デザイン世界」に参入するための指南書として読めた。
「デザイン思考」について、スタンフォード大学のジム・プラマー博士の言葉が紹介される。《ここで言うデザインは、非常に広い意味のものです。私たちの生活にかかわるあらゆる問題の解決策を見いだすことを指します。すでに存在する課題を解くのではなく、課題そのものを見つけるところからはじめてビジネスにつなげる。これが『デザイン思考』と呼ばれるものです。」》(38-39p)スタンフォード大学のd.schoolが提唱する「デザイン思考」には5段階プロセスがある。《1. 共感:関係する人々のニーズを理解する 2. 問題定義:ユーザーを中心に問題を構成し直し、定義する 3. 創造:多くのアイデアを生みだす 4. プロトタイプ:プロトタイプ(試作品)を制作して実践的にアプローチする 5. テスト:問題に対するプロトタイプや解決策を発展させる》。d.schoolでは、「共感」からのスタートが説かれている。

一方、奥山氏によれば、まず「ニーズ」ではなく「ウォンツ」である。《「『ニーズ』とは、『必要性』すなわち『顕在化した需要』」「『ウォンツ』とは、『欲求』すなわち『潜在的な需要』」・・・ウォンツはなくても生きて行けるにもかかわらず、人はそれにお金をかけることをいとわない。・・・これからのマーケットを動かしていくのは、ニーズではなく、ウォンツである。》(69-70p)

d.schoolと奥山氏を合わせれば、デザイナーとユーザーの「ウォンツについての共感」から始まるということだ。年間5110億円を売り上げたサイクロン掃除機の開発者ダイソンについて言う。《彼には潜在的な需要であるウォンツが見えていたのである。「これをつくれば必ず売れる」という絶対的な確信があった。》(75p)「絶対的確信」は、見えざる「共感」に由来する。それはまた、奥山氏の言う「クリエイティブ」にも通底する。《よく「クリエイティブ」という言葉を聞くが、クリエイティブとは、独創的だとか、創造的だとかというより(もちろんそうした側面はあるのだが)、自分の意識や思考を前提にしつつ、さらにそれを超えたところで、偶然起きたことをつかまえる能力だと思う。》(176p)見えなかったことを見る力である。理屈ではなく、実体験に裏付けられた言葉である。

さらに「ウォンツ」にまつわるキーワードとして著者は、「フラッグシップ(旗艦)」と「ヘリテージ(伝統遺産)」をあげている。《現代の自動車会社のテスラは、自分たちがやろうとしていることと、昔の人物をうまく結びつけてブランドのネーミングにし、巧みにイメージ喚起をしたのだ。》(131p)さらに私はそこに「ビジョン」を付け加えておきたい。「ウォンツ」が志向するところに、視えていなかった未来が視えてくる。「夢」と言ってもいい。とすると「夢」は「ウォンツ」に先立つか。

さて、その「ウォンツ」を掘り当てたとして次の段階、《伝えるべき考えや計画がしっかり構築されていなければ、良いデザイン、効果的なデザイン。意味のあるデザイン、ビジネスや社会にイノベーションを起こすデザインは生まれないのだ。》(48p)。そこで要求されるのが「言葉のデザイン」。《「デザインというのは、モノをつくるために意見を集約する仕事である。誰が何をほしがっているかを明確化し、それを具現化していくプロセスとも言える。デザイナーといえば一日中絵を描いている商売だと思っている人が多いが、絵を描くことよりも何よりも大事なのは、「言葉を通してコンセプトを選び出す」作業である」(『100年の価値をデザインする』PHP)》(49p)そのためには《職場や組織内など、日ごろのビジネスの現場で「議論する」こと》(52p)、そしてその議論は、《反対意見も取り込んでうまく議論しながら、双方に共通するベクトルを探し出し、それを共通の目的意識として確立することで、全体の落としどころを探る。いい議論を重ねることで、関係者のほとんどが納得する結論が出る。/だからこそ、結論が出た後の仕事が早い。》(54p)この「議論」こそが成否を分ける決め手なのだ。

以上、私なりの関心で整理してみた、奥山氏の「デザイン指南」。

最後に、「カスタマーエクスペリエンス」と「インキュベーションプロジェクト」という言葉で奥山氏の実践例が示される。

「モノ」から「コト」への消費性向の変化とともに重要視されるようになったのが「カスタマーエクスペリエンス(CX)」。ユーザーが商品・サービスを利用した際に感じる心理的・感覚的な「価値体験」のことである。あるサイトにいい説明があった。《カスタマーエクスペリエンス(CX)と似たような言葉として取り上げられるものに「顧客満足度(CS)」があります。/顧客満足度はユーザーの不満を解消することに主眼を置くことに対し、カスタマーエクスペリエンスはユーザーの期待を上回る価値を生み出すことに注力します。/マイナスをなくすことに注力するのか、プラスを生み出すことに注力するのか、という点が両者の大きな違いです。》https://ferret-plus.com/9729 顧客が求めている以上の「価値体験」の提供を目指すこと、そうしてデザインされたのがJR東日本の「四季島」だった。

もうひとつ「インキュベーションプロジェクト」。《時代や世の中の変化を見据え、常に身の回りから問題を探し、その解決策を頭の中でシミュレーションしておくことが、ビジネスデザインの第一歩だ。》(233p)そこから企業や自治体等に対する社会問題解決のための提案が生まれる。その実例として「モビリティ」(移動手段)問題への取組みが紹介されている。ここを読んで、コロナ後の「新しい生活様式」模索の中で、奥山氏からどんな構想が出てくるか、おおいに関心と期待を抱かされたことだった。

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