「財務省の最も重要な仕事は、国家の経済が破綻しないよう、財政規律を維持すること」とする財務省イデオロギー に対して、 「緩和策が大規模すぎた反動で、出口の際に財務の悪化だけでなく市場の混乱が懸念」の現実に直面させられている日銀。そのせめぎ合い(迷い)の中から誕生した植田新日銀総裁。リーマンショックを乗り切ることができたのは「大規模な緩和策」あってのこと。しかし、その限界に達しつつあるのが今。ウクライナのおかげで中露中心の代替策が急成長、それゆえ明確になった米欧日の「限界」。のらりくらりでいいから、何食わぬ顔で代替策に重心を移してゆけばいい。
《経済学がもつ最大の限界は、それが前提とする人間像が現実とは違うことにある。経済学は、自身の目先の金銭的利益追求のみを考える「今だけ、金だけ、自分だけ」=「3だけ主義」の利己的な人間像を前提としているが、人間の行動原理は利他的な側面も含めて、もっと深く、広い。「3だけ主義」を「合理的」だと強く信じている者が多い。このことこそが経済学の限界と言ってもよかろう。》(鈴木宣弘『協同組合と農業経済 共生システムの経済理論』)
世界は経済学の限界を超えたところで動いている。だれもがそのことに気づきつつある。
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『『安倍晋三 回顧録』に反論する 齋藤 次郎 元大蔵事務次官
「『財務省の省益』と言われるのは心外です」“最後の大物次官”がメディア初登場
インタビューを受けるのは初めてです。1995年の大蔵次官退任以降、様々なメディアから依頼を受けましたが、全てお断りしてきました。私は現役時代、松下康雄さん(在任:1982〜84年)、山口光秀さん(84〜86年)、吉野良彦さん(86〜88年)……三代にわたって歴代次官に直接仕えた経験がありますが、3人の方それぞれから、「役人は、辞めた後にあれこれ喋るものではない。絶対に黙っていろ」と、厳しい訓示を受けていたからです。
30年近くこの教えを守って表に出ることは避けてきましたが、「そろそろ話してもいいかな」と思ったのは、昨年7月に亡くなった吉野さんの言葉がきっかけです。最後にお会いした際、「デンちゃん、そろそろ時期ではないか」と。吉野さんがなぜそう言い出したのかはわかりませんが、昨今の時代の変化を感じ取ってのことかもしれません。』
『財務省は防衛費や補助金を出し渋り、増税を企む国民の敵であるかのように批判にさらされています。
そうした見方を助長しかねないのが、今年二月に出版された『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)ではないでしょうか。生前の安倍元首相へのインタビューをまとめたものですが、財務省は何か所にもわたって名指しで批判されています。私も読んでみたのですが、正直、ここまで嫌われていたとは思っていなかったです』
『財務省の最も重要な仕事は、国家の経済が破綻しないよう、財政規律を維持することです。『回顧録』の中で安倍さんは、財務省のことを<国が滅びても、財政規律が保たれていれば、満足なんです>とおっしゃっていますが、財政規律が崩壊すれば、国は本当に崩壊してしまいます。大幅な赤字財政が続いている日本では、財政健全化のために増税は避けられず、そのため財務省はことあるとごに政治に対して増税を求めてきました。
それは国家の将来を思えばこその行動です。』
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金融緩和の「副作用」 日銀の要望で公的文書から表現が削除されていた 一昨年の財政審報告書、円急落を警戒
2023年4月12日 06時00分
財務相の諮問機関「財政制度等審議会」(財政審)が2021年12月にまとめた報告書で、「日銀の財務が悪化すると通貨の信認が低下しかねない」とする趣旨の表現が日銀側の要望で削除されていたことが分かった。大規模な金融緩和を「成功」とする一方、緩和の副作用である財務の悪化懸念が円売りにつながりかねないことを表にしたくない日銀の本音が透ける。
9日に日銀総裁に就任した植田和男氏の最大の課題は、10年に及ぶ大規模緩和を終え政策金利を上げて正常化に向かう「出口戦略」の模索だ。日銀が金利を上げるには、民間銀行から預けられた「当座預金」に支払う利子の利率を上げる操作が必要で、利払い費が増え財務が悪化する。
関係者によると、財政審の当初の報告書案では金利が上昇した場合、日銀は当座預金への利子の支払いが収入を上回る「逆ざや」が拡大すると記述。逆ざやの拡大が、通貨の信認を低下させるという悪循環に陥る可能性に触れ、円の急落などを連想する表現だった。
報告書のまとめの議論がされた21年11月の議事録によると、審議会臨時委員の雨宮正佳日銀副総裁(今年3月退任)が財務悪化の表現に異議を唱えた。雨宮氏はこの問題について「さまざまな議論がある」とし、「通貨の信認を日本銀行の財務と関係させて論じることは必要ではないし、適当ではない」と述べた。次の会合で財務省側の事務局の担当者は「雨宮委員のご指摘を踏まえて修正した」と発言し、報告書から該当部分を削除した。
だが、大規模緩和の開始から2年目の14年の国会で、雨宮氏は「財務の健全性を維持することは通貨に対する信認を確保する上で大変重要」と、財政審での異議と矛盾する発言をしていた。
ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「財務の悪化が通貨の信認に影響すると公的な文書で書かれると、そのこと自体が円売りなどの投機的な動きを呼び起こしかねないと警戒した可能性がある」と指摘する。
雨宮氏の指摘について、日銀は本紙に「前副総裁が発言した通り」と説明。発言の後に報告書から削除されたことには「コメントを差し控える」としている。 (渥美龍太、桐山純平)
【日銀の出口戦略 世の中に大量のお金を流し、金利を低く抑える「金融緩和」を終わらせること。流したお金を回収し、金利を引き上げる。日銀以外の主要中央銀行は軒並み、急激な物価高を抑えるため金利を引き上げた。日銀は緩和策が大規模すぎた反動で、出口の際に財務の悪化だけでなく市場の混乱が懸念される。植田和男新総裁は当面、緩和を続ける考えを示している。】
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