とにかく大量の古代遺物に圧倒された展覧会だったが、その物量のすごさの中で、ほっと心に残った二つ。

一つは「埴輪 見返りの鹿」(61-2)。《立派な角を生やした鹿が左後方を振り向いた瞬間を写実的に表現した埴輪。頭部から首、背中、尻を経て左足の一部までが復元されているが、前足などは判明していない。角は別作りになっていて、ソケットにして頭頂部に差し込まれており、取り外すことも可能になっている。特に頭部の表現は精巧で、鼻の穴の位置が左右で傾き、顎の上下をわずかにずらしているのは、草を食んでいる様子を表わしているか。切れ長のかわいらしい目をしているが、ぴんと立てた耳は、あたかも人の気配に慌てて振り返ったかのような緊張感がみなぎる。/この埴輪が発見された平所遺跡は、昭和五十年(一九七五)に発掘調査された埴輪専用の窖窯(あながま)で、窯体の残存長は約五·八メートル。窯の内部からは大量の形象補輪片が出土しており、特に焼成部付近では馬、家形埴輪の破片が床面の全面に堆積していた。これらの埴輪片は無秩序に散在しており、窯詰めされた状況とは思えないことから、操業終了後に破砕して一括廃棄されたと考えられている。また、非常に精巧な埴輪が生産されているにもかかわらず、ここで作られた埴輪の供給先となる古墳が判明していない。》高さが93.5cmだからかなり大きい。そのリアルさは埴輪のイメージをはるかに超えるもので驚かされた。解説の太字部分、ここを読んであらためてすごいと思った。