質問が漠然とし過ぎていて回答が免疫学全般に及びそうなのですが、まあ私もそこまで精通しているわけでもないし(笑)、知ってる範囲でなるべく簡潔に。
コロナワクチンはコロナウイルスのS蛋白(細胞に感染するため結合する蛋白/スパイク蛋白)だけを細胞に作らせ、それに対する抗体を誘導するワクチンです。
つまり、「投与した『擬似ウイルス』は増殖せずS蛋白のみを産生する」ということ以外は、まあざっくり言って自然感染と同じような現象、と理解して良いです。あくまでざっくりですが。
その違いがどういう差違を生むか、ということです。
自然感染の場合は、細胞が産生するモノはウイルス粒子そのものですから、ウイルスの全粒子に対する抗体が誘導されます。
抗体が認識する蛋白の部位をエピトープと呼びますが、S蛋白上だけでも20カ所以上のエピトープ、全粒子では70カ所以上のエピトープが見つかっています。
数はうろ覚えです(笑)
これからもいくつも見つかるでしょうし。
これらの多数のエピトープの中で、中和抗体、すなわちウイルスが細胞と結合するのを阻害する抗体のエピトープはS蛋白上のほんの1~数カ所のエピトープです。
とすると、あらゆるエピトープに対する抗体を誘導する自然感染の方が強力な免疫を誘導できる、と思うでしょ(^-^*)
まあそういう場合も多いのですが、かならずしもそうとは限りません。
ひとつは、ウイルスが免疫系の働きを阻害するような振る舞いをすることがあることによるもので、コロナもパンデミック初期に「白血球に感染する」と報告されたことを覚えている方は…もう少ないか。
これが「コロナはエイズウイルス(HIV)の遺伝子を組み込んだ人工ウイルス」なんていう浅はかなデマの元ネタになったと私は思っているのですが、白血球に感染するウイルスなんて珍しくも何ともありませんてば(笑)
中には白血球に「食われる」ことで感染するウイルスもあるくらいですから。
まあ考えてみれば、ウイルスの感染は「細胞表面上の特定の蛋白に結合したウイルスを細胞が「食う」こと」と言えなくもないほどですし。
それはともかく、自然感染の場合は、ウイルスが免疫系の働きを阻害することがある、というのが一点。
それから、全粒子に対する抗体を産生することは、必ずしも"良いこと"とは限りません。
中には「この抗体があることによって、次の感染の際には却って感染が憎悪(増悪?)してしまう」エピトープをウイルスが持っている場合があります。
これを感染増強抗体とか呼んでいて、それによって再感染時に症状が憎悪(増悪?)してしまう現象を抗体依存性感染増強(ADE)と呼んでいます。
コロナは希ではありますが、このADEが報告されています。
まあ、ウイルスも免疫系の裏をかく進化を遂げているということなので(しかも進化の速度はウイルスの方が100万倍単位で速い)、自然感染が必ずしもベストの免疫を得られる手段、というわけではないのです。
で、ワクチンの効果は「重症化予防」なんて言う人もいますが、重症化を予防できるか、発症を防止できるか、あるいは感染そのものを防御できるかは、そのワクチンがどんな免疫をどのくらい誘導できるか、によります。
優れたワクチンは高い発症予防を有しますし、感染防御能を誘導できるワクチンもあります。
そしてコロナのmRNAワクチンは非常に優れたワクチンです。
基本的に、自然感染だろうがワクチン抗体だろうが、「中和抗体」に注目すると、体内から抗原(ウイルスやワクチン抗原)が排除されてから、抗体が低下していく速度は同じ、と考えて良いです。
この低下速度を「半減期」という測定の仕方をすることが多いのですが、つまり抗体価が半減するまでの期間、です。
コロナは自然感染による抗体もワクチン抗体も、この半減期はほぼ同じ、とここでは考えて多分良いです。
つまり、感染または発症を防御する期間は、最初にどのくらいまで抗体価が上昇したかに依る、ということです。
例えば、有効抗体価(発症予防に必要な抗体価)が100であったとして、自然感染直後に抗体価が400まで上がったとし、さらに半減期を3カ月とすれば、自然感染による再感染時の発症防御期間は6カ月、ということになります。
ところがですね、ワクチンだと抗体価を1600まで上げることが可能なのです。
するとワクチン接種後の発症防御期間は1年、ということになります。
ところが、このワクチンはコロナの始祖ウイルスである武漢株で作られたワクチンです。
ウイルスも変異するので、デルタ株に対しては1600の抗体の半分しかウイルスを中和できない、ということが起きます。
すると抗体価は800に低下してしまうので(抗体そのものが減少したわけではないが、50%しか有効にならないということ)、この場合の有効期間は9カ月ということに。
さらにオミクロン株はさらに抗原性が変異しているので、デルタと比較してさらに1/4まで抗体価が低く出るようなことになるわけです。
すると接種直後でも200しか抗体価がないので、3ヵ月も経てば有効性が切れてしまう、というわけです。
まあ数字そのものは今、説明するために適当にでっちあげたデタラメですが、まあこういうことが起きている、という理解をしていただければ良いです。
で、この事態にどうするか。
免疫系は何度も同じ抗原に暴露すれば、抗体が立ち上がる速度も早くなり、抗体価も飛躍的に上昇することが知られています。
これをブースト効果、とか言ったりします。
つまり3回目接種によって抗体価が800まで上がれば(この時武漢株に対しては6400まで上がっている)、9ヵ月の発症防御期間が確保できる、というわけです。
まあ、これがどのくらい上手く行くかは、武漢株やデルタ株とオミクロン株の交差性がどのくらいなのか、どの程度のブースト効果があるのか、等々の要素が絡むので、やってみないと分からない面も多々ありますが。
他に細胞性免疫といって、感染細胞をリンパ球が直接攻撃する免疫系も、このワクチンで誘導されます。
また、感染や発症は防御できないほどの抗体価でも、肺でウイルスが増殖するには十分だったりするので(肺は中和抗体が攻撃しやすい部位)、ワクチンによる免疫もそう単純ではありません。
本当はオミクロン株で設計したワクチンがベストなのですが(開発はmRNAの配列を変えるだけなので簡単)、生産や流通に時間がかかっている間に次の株が出てきたりすると無駄骨になる可能性があるので難しいところです。