昨年9月にスタンフォード大学から東大教授に転身した宮内出身の経済学者 星岳雄先生、8月6日の日経「アフターコロナを探る」に「未来先取りの改革、今度こそ」の論考が載りました。いわく、《産業構造の変化を伴うような大きな変化に対応するためには、新しい経済構造に適した新しい企業が、競争力を失った古い企業にとって代わる必要がある。》《ゾンビ企業の救済が90年代後半から00年代にかけて、日本経済を停滞させる一大要因になった。》《労働者個人への支援を充実すると同時に、企業側ではその新陳代謝を活発化するような政策の組み合わせが「質の高い経済社会」への道だろう。》「ゾンビ企業」については、2013年の著書『何が日本の経済成長を止めたのかーー再生への処方箋』の中で《ゾンビ企業とは、生産性や収益性が低く本来市場から退出すべきであるにもかかわらず、債権者や政府からの支援により事業を継続している企業と定義できる。ゾンビ企業は事業を継続して、本来であればより生産性の高い企業に再配置されるべき労働者を雇用し続けることにより、経済の効率性を低下させる。この結果、健全な企業の成長は抑制され、やがて経済全体の伸びが低下する。》( 22p)とあり、星教授の持論です。かねてよりの主張の及ぶところ、要するに、”コロナ危機の今こそ「ゾンビ企業淘汰」のチャンス”ということです。

ところがこの議論に、中野剛志氏が真っ向反論しています。「『コロナ不況を機にゾンビ企業を淘汰』という説が、日本経済を壊滅させる『危険な暴論』である理由」https://diamond.jp/articles/-/236535 です。《「ゾンビ企業」論は、不況の責任を問う声を政府から逸らし、あろうことか、弱っている民間企業へと向かわせるのである。政府からすれば、まことに好都合な論理ではあるが、その結果としてもたらされるものは、不況の深刻化、そして、より非効率な経済構造なのだ。/「淘汰」されるべきは、ゾンビ企業ではない。「ゾンビ企業」論である。》星教授は「ゾンビ企業」の具体例はあげていません。ただ、著書の「開国政策」の中で「農業保護の削減」をあげて、《日本の農業保護の水準は異常に高い。・・・農業部門の付加価値額は完全に補助金によって相殺され、農業の日本の付加価値額への寄与はゼロであることを意味する。・・・土地持ち非農家や自給的農家の増加は、他産業のゾンビ企業と同様に、農業に有害である。生産性の高い農家の拡大を妨げ、新規参入を抑制しているからである。ゾンビ農家の増加は、日本の農業分野における深刻な問題だ。》『何が日本の経済成長を止めたのかーー再生への処方箋』170p)とあります。農業も「ゾンビ視」されているのですが、それでいいのか。たしかに、中野氏の言うこの「ゾンビ企業」論は、コロナ危機で窮地に立たされている人々を追い詰めるのみならず、「日本経済を壊滅させかねない極めて”危険な議論”である」》に賛同したくなります。

とはいえ身内感覚もあって、別な視点から星教授の深意を読み取ってみることにします。