田中宇の国際ニュース解説「ナワリヌイ死去の裏読み 」https://tanakanews.com/240222russia.htm

要約:《【2024年2月22日】ロシアは、欧米が現実策に転換してロシアに和解を求めてくることを望んでいない。だから、ミュンヘン安保会議がユリア・ナワルナヤを呼んで演説させるタイミングに合わせて夫のナワリヌイを殺して発表し、ナワルナヤに情緒的なプーチン敵視の演説をさせ、会議の雰囲気をプーチン敵視で充満させ、会議で対露和解の話を出そうとしていた欧州の現実派を黙らせたのでないか。》

以下、ダイジェスト

プーチンとしては、国内的に反政府運動の強さを測るためにナワリヌイに反政府的な発言をさせ続けていたのでないか。/国際的には、米欧に露(中)敵視を強めさせ、露中やBRICS・非米側が結束を強めて米覇権を崩す動きを強化する流れを維持するため、米欧が支持するナワリヌイを投獄して、意見発信を許しつつ、いじめ続けた。その後のウクライナ開戦後の対応へと続く「偽悪戦略」の流れが見える。//ナワリヌイは米欧風の政治を好むリベラル派でなく、その逆の右派民族主義者で、クリミアは(地元民の民意に沿って)ロシア領であるべきだと言っており、反ウクライナだ。彼の政治思想は、欧米リベラル派が極右とかネオナチと呼んで誹謗する種類のものだ。彼は、プーチンの汚職だけを非難(喧嘩売り)し、外交政策には賛成していた。 /それなのに欧米リベラル派は、ナワリヌイがプーチンに喧嘩を売っていたのを好機として、ナワリヌイをリベラル派のように扱い、ロシアの反政府人士の代表として称賛し、支持してきた。/欧米の政府や権威筋は、何でも良いからロシアを敵視したい。その構図は、ロシアを敵視して強化する隠れ多極派の策略に乗せられており、プーチンも売られた喧嘩を喜んで買ってロシアを台頭させている。

ロシアで最初にナワリヌイの死を発表したのは西シベリアの監獄当局だったが、その数分後には露大統領府(クレムリン)が記者発表し、話はすぐにミュンヘンの安保会議に伝わった。露政府は、ミュンヘンの議場にユリアがいる時間を狙ってナワリヌイの死を刑務所に発表させ、ユリアが情緒的な演説をするように仕向け、米国側が露敵視とウクライナ戦争支援を強めるように画策したのでないか。》

露政府は、米諜報界の隠れ多極派と同様、ウクライナ戦争と露敵視の長期化を望んでいる。欧米は、ウクライナ戦争と露敵視を続けるほど、露中や非米側の台頭を誘発して覇権を失い、経済政治の両面で自滅していく。/ウクライナ開戦後、ロシアは米欧から強烈に経済制裁されているのに経済成長している。米欧が中露を敵視するほど、中露と非米側が経済結束して米欧抜きの世界経済を作って発展していく。/プーチンの露政府は、この状態をもっともっと続かせたい。その方が発展できる。習近平も似たような戦略だ。//ロシアは、欧米が現実策に転換してロシアに和解を求めてくることを望んでいない。だから、ミュンヘン安保会議がユリア・ナワルナヤを呼んで演説させるタイミングに合わせて夫のナワリヌイを殺して発表し、ナワルナヤに情緒的なプーチン敵視の演説をさせ、会議の雰囲気をプーチン敵視で充満させ、会議で対露和解の話を出そうとしていた欧州の現実派を黙らせたのでないか。

ナワリヌイを支持するのは、ロシアの事情を知らず、米国側の報道を鵜呑みにする軽信的な欧米日のリベラル派などだけだ。プーチンは、ナワリヌイのような敵を必要としなくなった。ナワリヌイは「最期のご奉公」として、殺されることによって米国側の怒りと露敵視を扇動し、多極型世界におけるプーチンのロシアの台頭と経済発展を加速させる役割を課されることになった。》

プーチンは最近、今秋の米大統領選でバイデンが勝つことを望んでいると表明した。「ウクライナが勝つまで支援し、永遠に露敵視する」と非現実的なことを言い続けるバイデンが今秋の米大統領選で勝つことをプーチンは望んでいる。対露和解や、ロシアとウクライナの対話を仲裁しそうなトランプに当選してほしくない。》

私はこれまで、NATO加盟国とロシアが開戦すると、すぐに5条が発動されて米露が核戦争になるので、NATOはロシアと開戦せず、戦場は今後もずっと非加盟国のウクライナだけに限定されるだろうと思ってきた。/だが、NATO加盟国とロシアが開戦しても、米国がすぐに5条を全面発動せずぐずぐずしていたら、NATOとロシアが開戦しても米露の全面戦争や核戦争にならないシナリオがあり得ると思い直した。//このシナリオは、NATOとロシアの交戦状態・有事体制を生むため、トランプが返り咲いてもロシアと和解するわけにいかなくなり、トランプはNATOを棄てることもできなくなる。ロシアは、米国側と非米側の対立を維持して多極型世界で発展できる。/NATOがロシアと開戦しても5条が全面発動されないのはNATOの信用失墜になる。米露間の対立の度合いをうまく調整しないと本当の核戦争になる。だが、それらの問題を回避できれば、トランプに露敵視とNATO関与の維持を強要できる。》

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