「食料・農業・農村基本法改正に当たっての提言-農業者の所得向上を最優先に考えた農政へ-」 [舟山やすえ]
5月26日(金)、国民民主党農林水産調査会での議論を経て、「食料・農業・農村基本法改正に当たっての提言-農業者の所得向上を最優先に考えた農政へ-」を党の提言として取りまとめました。早速、農林水産調査会長として、玉木代表、長友政務調査副会長とともに、野村哲郎農林水産大臣を訪れ、提言内容について申し入れを行いました。
担い手や農地減少の最大の理由である個々の農業者の「所得の低さ」を解消するために、「環境加算」や「防災・減災加算」を含む「食料安全保障基礎支払」の導入など、提言内容の実現を目指してまいります。
・
農業者の視点に立った「骨太の基本法」制定を求め、以下の9項目を提言
・
1.拙速に結論を出すことなく、施策効果の評価を行った後に法改正に着手すべき
2.営農継続可能な農業者の所得向上を最優先に考えた農政へ
(1)適正な価格形成に向けた環境を整備すること
(2)「食料安全保障基礎支払」(含「環境加算」「防災・減災加算」)を導入すること
3.多様な経営体を担い手として位置づけること
4.水田の役割を明確化すること
5.農地のゾーニングと出口規制を強化すること
6.農村政策の充実を図ること
7.みどり戦略の実現に向け、基本法で方向性を示し、政策的な後押しを行うこと
8.食料安全保障の確立に向け、食料自給率の向上・目標を品目別に明確化すること
9.消費者の選択に資するため、食品表示の拡充を図ること
・
食料・農業・農村基本法改正に当たっての提言-農業者の所得向上を最優先に考えた農政へ-
・
* * * * *
・
令和 5 年 5 月 26 日
食料・農業・農村基本法改正に当たっての提言
-農業者の所得向上を最優先に考えた農政へ-
国民民主党
食料・農業・農村基本法改正に当たっての提言
-農業者の所得向上を最優先に考えた農政へ-
国民民主党
農政の基本的指針である食料・農業・農村基本法の制定から20年以上が経過した。この間、WTO(世界貿易機関)による世界全体の貿易ルールづくりの交渉が行き詰まり、本来は例外として規定されていた2国間のEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)が国際交渉の主流となり、もともと関税削減や自由化の議論において特別の配慮がされていた農業分野においても関税引き下げ競争が激化。
さらには、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)の締結により「例外なき関税撤廃」の流れが加速。その結果として、安価な農産物輸入の増加に押され、担い手や農地の減少に歯止めがかからず、我が国農業は大変厳しい現状に直面している。現行基本法においても「国内の農業生産の増大を図ることを基本」としている中、農業総産出額、生産農業所得ともに現行基本法制定時よりも低迷している。さらに長いスパンで見ると、最大の生産基盤である農地面積は、この半世紀で約4分の3に減少、農業就業者数は約6分の1にまで減少している。そして、その最大の理由は、個々の農業者の「所得の低さ」にある。
政府は、現行基本法で「担い手」として位置づけた「効率的かつ安定的な農業経営が生産の相当部分を担う」といった方向性が正しかったのか否か、なぜ、「国内生産の増大」が実現できなかったのか、まずはその検証を行うべきである。
一方で、世界的な人口増加、とりわけ中国の経済発展に伴う需要の増大、温暖化に伴う異常気象の頻発に起因する生産の不安定化、ロシアによるウクライナ侵略に代表される紛争の激化などによる供給途絶、資材価格の高騰などにより、世界の食料需給は不安定性を増し、「お金さえあればいつでもどこからでも食料が買える」状況は一変した。食料自給率がわずか38%の我が国は、ひとたび海外からの輸入が途絶すると国民の生命を脅かしかねない深刻な状況に直面していると言える。国家の最大の責務の一つは「食料の安定供給」であり、かつてフランスのド・ゴール大統領が発した「食料の自給できない国は真の独立国ではない」との言葉は至言である。国民民主党も「自分の国は自分で守る」ことを柱に掲げている。食料を戦略的に、ある種の「武器」として考えている国もある中、まさしく、安全保障の要の一つは食料・農業であることを、今こそ再認識すべきである。
昨年末の「食料安全保障強化政策大綱」でも言及されている通り、「食料安全保障の強化」を図るために、今こそ国内の生産力を高め、国土の健全性を担保しながら、環境と調和の取れた食料生産に施策をシフトしていく必要がある。
昨年末の「食料安全保障強化政策大綱」でも言及されている通り、「食料安全保障の強化」を図るために、今こそ国内の生産力を高め、国土の健全性を担保しながら、環境と調和の取れた食料生産に施策をシフトしていく必要がある。
後述の基本法検証部会が 5 月 19 日に中間取りまとめ(案)を示したが、農業を取り巻く現状認識や課題は概ね共有できるものの、基幹的農業従事者の減少の要因分析と減少に歯止めをかける具体策や、農地の維持確保に向けた課題分析と具体的な解決策に欠け、再生産可能な農業者の所得確保の必要性にも正面から向き合うこともないまま、相変わらず輸出偏重の姿勢が示されるなど、食料・農業・農村を守るための本気度が疑われる内容と断じざるを得ない。日本農業の風土と歴史に根ざしたまさに「骨太の基本法」が必要である。そこで、基本法見直しに当たり、以下の9項目につき、提言する。
1.拙速に結論を出すことなく、施策効果の評価を行った後に法改正に着手すべき
前回の旧基本法見直しの際は、最初に検討本部が立ち上がってから約8年、具体的に新たな基本法制定の議論に着手してから約4年の歳月をかけて合意形成を行い、法案が決定されている。
前回は、農林水産大臣主催の懇談会で約1年かけて現行法の成果や問題点などの分析とそれを踏まえた基本法をめぐる諸問題についての論点整理を行った後、総理府(現在の内閣府)に設置された総理の諮問機関である「食料・農業・農村基本問題調査会」にて約1年半に及ぶ50回を超える議論の末、その答申を経て「農政改革大綱・農政改革プログラム」が決定され、翌年の法改正に至っている。
一方、今回は、昨年 9 月に農水省の「食料・農業・農村政策審議会」において諮問された後、10 月に「基本法検証部会」を設置、わずか 7 ヶ月の間に 15 回の部会で検討を行った末、「中間取りまとめ」を出す予定と聞いている。
食料・農業・農村をめぐる環境が大きく変化している中、今後の農政の大きな指針を決めるに当たっては、これまでの施策の効果に関する検証・評価、課題抽出を行い、他国の政策も参考にしながら、さらなる大局的な議論を重ね、現行の諸施策の「棚卸し」も含めて抜本的な見直しを体系的に行った上で、法改正に着手するべきである。
なお、今後「中間取りまとめ」の後、地方説明会やパブリック・コメントを経て、夏をめどに答申として「最終取りまとめ」を出すと聞いているが、これと 6 月に取りまとめが予定されている「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の「食料・農業・農村政策の新たな展開方向」との関係が不明であり、両者の関係を明らかにすべきであ
ることを付言する。
2.営農継続可能な農業者の所得向上を最優先に考えた農政へ
一方、今回は、昨年 9 月に農水省の「食料・農業・農村政策審議会」において諮問された後、10 月に「基本法検証部会」を設置、わずか 7 ヶ月の間に 15 回の部会で検討を行った末、「中間取りまとめ」を出す予定と聞いている。
食料・農業・農村をめぐる環境が大きく変化している中、今後の農政の大きな指針を決めるに当たっては、これまでの施策の効果に関する検証・評価、課題抽出を行い、他国の政策も参考にしながら、さらなる大局的な議論を重ね、現行の諸施策の「棚卸し」も含めて抜本的な見直しを体系的に行った上で、法改正に着手するべきである。
なお、今後「中間取りまとめ」の後、地方説明会やパブリック・コメントを経て、夏をめどに答申として「最終取りまとめ」を出すと聞いているが、これと 6 月に取りまとめが予定されている「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の「食料・農業・農村政策の新たな展開方向」との関係が不明であり、両者の関係を明らかにすべきであ
ることを付言する。
2.営農継続可能な農業者の所得向上を最優先に考えた農政へ
(1)適正な価格形成に向けた環境を整備すること
食料供給を持続可能なものとし、併せて農村の振興と地域社会の持続的発展に寄与するためには、様々な担い手による継続的な農業生産活動が必要不可欠である。農業者の減少や高齢化の最大の理由は「所得の低さ」であり、その背景にあるのは、長引くデフレで安売り競争が常態化していること、関税撤廃や引き下げの中、海外の安価な農産物輸入に市場を奪われたことに加え、資材価格の高騰によりさらに農業の収益性が悪化していることである。
これまでの議論の中では、適正な価格形成の必要性が提起されており、専ら生産者の「コスト削減努力」ばかりが強調されていた従来の方向性から転換したことについては大いに評価するが、価格転嫁対策や商慣行の改善も含めて、適正な価格形成に向けた具体的な対策の策定を急ぐべきである。
(2)「食料安全保障基礎支払」を導入すること
品目によっては価格転嫁が厳しいことにも留意が必要である。
野菜や果樹のような、労働集約型かつ品質の差が価値として反映しやすい品目については、再生産可能な価格の実現に向けた価格転嫁対策を行うべきであるが、米や麦、大豆など、土地利用型かつ国際価格が形成されている品目については、海外産との競合の問題もあり、価格転嫁が極めて難しい。さらには、低所得層に対する食料の安定供給の確保の面からも、消費者負担型には自ずと限界がある。
海外では、再生産可能な所得の確保に向け、様々な直接支払い政策が導入されている。例えばEUでは、共通農業政策(CAP)において、「経済的に成り立つ農業収入の確保支援」を柱の第一に掲げ、「所得支持」政策を拡充、作目を問わず農地の維持に対して一律の単価で支援する「基礎的所得支持」をはじめとする各種所得支持に加え、気候、環境及び動物福祉への配慮に対する面積支払いである「エコスキーム」など、農地に対する支払いが充実している。
農地は、農業生産の基礎的基盤であることに加え、環境や景観、生物多様性の維持保全、洪水防止機能など様々な役割を持つ、安全保障の要である。我が国においても「日本型直接支払制度」として、「多面的機能支払」、「中山間地域等直接支払」、「環境保全型農業直接支払」が用意されているが、いずれも共同作業などが要件であり、真に農地の維持や所得支持につながっているものとは言いがたい。
従って、基本法見直しに当たっては、EUの取り組みも参考に、農地への面積支払いを基本とした「食料安全保障基礎支払」を導入すべきである。導入に当たっては、環境配慮型農業を推進するため、有機農法やGAP認証を受けた農法を行う農家に上乗せする「環境加算」や、地球温暖化の影響で増大しつつある洪水や土砂災害対策に対して、ため池や農地の雨水貯留機能などを定量化して上乗せをする「防災・減災加算」も併せて創設するべきである。
3.多様な経営体を担い手として位置づけること
現行基本法では、「望ましい農業構造の確立」として、「効率的かつ安定的な農業経営」を「担い手」として位置づけ、その育成とそこに対する農地の集約を目指したが、現在の食料・農業・農村の現状を見ると果たしてその方向が正しかったのか、疑問を禁じ得ない。
言うまでもなく、農業生産も農村社会も、いわゆる「担い手」だけでなく、小規模農家や非農家などの多様な地域住民全体により維持されており、それに加えて、環境への配慮がこれまで以上に重視される今、大規模化、法人化志向一辺倒から、家族農業や小規模農家支援への転換の必要性が高まっている。そして何よりも、減少の一途をたどっている農業者をいかに確保していくか、という根本問題に向き合うべきである。
にもかかわらず、今回の中間取りまとめ(案)では、「現状より相当少ない経営体で農業生産を支えていかなければならない」と、農業者の減少を所与のものとして捉えており、そのこと自体に強く異を唱えたい。
令和 2 年の「基本計画」では、「中小・家族経営など多様な経営体」が農業生産や地域社会の維持に重要な役割を果たしていることを認め、評価している上、基本法検証部会においても「中小規模農家が持続可能な経営を続けられることも重要」との委員からの指摘があったように、所得の確保を通じた農業者の維持拡大を図るとともに、多様な経営体を担い手として法律に位置づけ、それらの経営体を支える施策を講じるべきである。
4.水田の役割を明確化すること
アジアモンスーン地帯に位置する我が国は、高温多湿で病虫害が多い上、近年の気候変動も相まって豪雨災害多発地帯の様相を強めている。そのような中、「水田は優れた生産装置」であり、これらのリスクにも強い上、災害リスクを軽減する様々な多面的機能を有することは論を俟たない。水田が育む魚介類や昆虫類、そしコウノトリなどの
貴重な鳥類も含めて生物多様性機能も近年注目されつつある。
地域の共同体機能も、水田における用水の共同管理・共同利用を軸として維持されており、そこには様々な文化・伝統や祭礼が継承され、日本人の心の原風景も残されている。
こうした点を鑑みると、需要に応じた生産へのシフトを図る前に、できるだけ水田を維持した上で稲作を中心とした水田利用を推進し、米のさらなる多用途利用の拡大を支援するとともに、水田としての機能を維持すべき水田の目標面積を国が責任を持って示すべきである。
5.農地のゾーニングと出口規制を強化すること
農地の減少が止まらない中、必要なのは農地の集積ではなく農地を守ることであり、それらを支える多様な経営体を育成することである。加えて、安易な転用を許さない仕組みを作る必要がある。
現在、農地法においては個別の転用規制を、農振法においては区域指定を、それぞれ定め、優良農地の維持の仕組みを設けているが、転用できない農地はない。
株式会社の農地所有の是非の議論もさることながら、誰が農地を所有(利用)しようとも、決められた区域においては安易に転用できないゾーニングと出口規制の強化を図るべきである。
株式会社の農地所有の是非の議論もさることながら、誰が農地を所有(利用)しようとも、決められた区域においては安易に転用できないゾーニングと出口規制の強化を図るべきである。
6.農村政策の充実を図ること
農業・農村の役割を再評価し、多面的機能の発揮のための施策を再検証すべきである。
離島や中山間地域などの条件不利地域においては、少量多品目生産や地域の産品づくり、農泊の推進、直売所の機能強化のほか、放牧や粗放的管理などの多様な農地利用、再生可能エネルギーによる発電・熱利用など、地域資源を活用した所得と雇用機会の確保などの施策の充実を図るべきである。省力化や低コスト化に資する高性能農業機械は、条件不利地域にこそ必要であり、技術が活きる場でもあることにも留意願いたい。
なお、中山間地域等直接支払制度については、「農業生産条件が不利な地域における農業生産活動の継続を支援することによる多面的機能の発揮」を目的として平成 12 年度に創設されたものであるが、その運用に当たっては、協定を締結した上で地域の共同作業を行うことを条件に交付される仕組みとなっている。本来の目的は、「平場との農業生産条件の格差を補正するための制度」であり、個々の農業者にその不利性を補正する額が交付されるべきものである。この目的に沿った制度として再構築すべきである。
近年、「半農半X」を求めて農山漁村に集まる多様な X 専門家(芸術家や作家など)、子育て環境の良さに魅せられて移住してくる若い家族が、コロナ禍を経て増えつつあるが、そうした農業関係人口を取り込むための施策も拡充すべきである。
7.みどり戦略の実現に向け、基本法で方向性を示し、政策的な後押しを行うこと
世界的に持続可能性の実現が重視されるようになり、気候変動や生物多様性への配慮なくして施策の展開はあり得ない中、環境負荷低減に向けた取り組みを示した「みどりの食料システム戦略」の推進は待ったなしである。一方で、気候、環境及び動物福祉に配慮した農業に関しては、コスト増や単収減といった課題も指摘されており、EUにおいては、減収分についてCAPで補てんするなど、政策的に後押しする方針が明確に示されている。
我が国においても、みどり戦略の実現に向け、基本法にその位置づけを明記するとともに、前述の所得支持政策を組み合わせて政策的な後押しを行うべきである。
8.食料安全保障の確立に向け、食料自給率の目標を品目別に明確化すること
我が国を含む世界の食料需給が不安定化する中、不測時のみならず平時における食料の安定供給を図るためには、国内生産の増大が何よりも重要である。
米の需給調整を国の責任で行うことや、食料自給率の具体的な目標数値(我が党の考えでは50%)を明示するほか、主要農産物、食料ごとの自給率目標を定める「食料自給基本計画」を策定するべきである。
9.消費者の選択に資するため、食品表示の拡充を図ること
食の安全に関しては、科学的根拠に基づいて農薬や化学肥料、添加物の使用基準が定められているが、食に対する安全意識が高まる中、安全か否かを超えて消費者の選択に資するような食品表示を求める声が大きくなっていることから、遺伝子組み換えやゲノム編集などの新たな技術に関する表示につき、その拡充に努めるべきである。
以上
コメント 0