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小田仁二郎の現在的意義(「杜」45号より) [小田仁二郎]

野川屋チーズステッカー 4.jpegコロナになってじっとしていました。イベルメクチンのおかげか、38.3度ぐらいが最高ですぐに平熱になったのですが、気力の減退がひどかった。次の行動がしたくない、ずっと今のままでじっとしていたい・・・気力を振り絞るべきところはなんとか振り絞って乗り切ってきたつもりですが、いろんなところにしわ寄せが出ています。

そんな中、昨日、初めて寄稿した「杜」45号が届きました。「宮内人・小田仁二郎」と題して書いていたものです。以前から代表の清野春樹さんから「小田仁二郎のこと書いて」と言われていた約束を、先日の市民大学講座で不十分だったところを補って果たしました。私の文は16pになりました。市販(800円+税)の同人誌なので、書店でお求めいただくことをお願いして、一部だけ転載しておきます。「五、小田文学の現在的意義」の中の「(三)、『同調圧力』に動じない精神のありよう」です。一昨日のマドモアゼル・愛さんの「メトロノームがもうすぐ止まる」https://www.youtube.com/watch?v=Emu-1ScESfEにシンクロしていました。

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(三)「同調圧力」に動じない精神の在りよう
戦争中がいかに異常な時代であったかを聞かされて育った。そういう異常な時代が過ぎたところで生まれたことをありがたく思っていた。ところがコロナ騒ぎが始まって、私が生まれる前の異常な時代がまた巡ってきているのではないかという思いに囚われるようになった。インフルエンザ程度の病気であることがわかっても、効くかどうかも定かでないまだ治験中のワクチンを、副作用覚悟で4回も5回も打つ人が8割を超えてしまうとはまさか考えなかった。さらにマスク着用率99%以上の日常、もはや顔を半分隠すことの気楽さから逃れられなくなっているかのようだ。そうこうしているうちにウクライナ騒ぎが始まった。調べればすぐわかる、2014年以降英米の策動によってロシア系住民の生命が脅かされてきた現実。ウクライナにロシアが攻め込まざるを得なかった切実な理由を理解することなく、報道のままに「ロシアが悪い」一辺倒の世の中になった。
 「同調圧力」にいかに抗するか。小田仁二郎の在りようが心を支えてくれている。

 ニーチェは概念世界を排し、自己のパースペクティブ(自分にとっての世界)を絶対視することで実存主義の流れをつくった。メルロー・ポンティは、他者のパースペクティブ(他者にとっての世界)も無視できないとして、生きている現実を直視した。
 自分を見る他者がいる。そこには、〈自分(私①)〉で思っている〈自分(私②)〉以外の〈自分(私③)〉がある。〈自分(私③)〉が在ることによって、〈自分(私①)〉自体と〈自分(私①)〉で思っている〈自分(私②)〉は変調を来す(分裂する)。全体としての〈自分(私)〉とは、絶えざる3者の相克(絡み合い)から成り立つ。
  ①〈自分(私①)〉:私自体(即自)
  ②〈自分(私②)〉:思う自分(対自/自意識)
  ③〈自分(私③)〉:他者が見る自分(対他)
 ニーチェにおいて絶対視された〈パースペクティブ〉は、メルロー・ポンティにおいて、他者の存在によって相対化されている。それがあるがままの〈生〉なのである。「現象」学のゆえんである。

 小田仁二郎は、①〈自分(私①)〉の「私自体(即自)」を目指した。福田恆存は、「触手」にその達成をみて、日本で初めての《完全な一人称小説》と評した。小田仁二郎は「感覚」を極めることで「世界(普遍性)」を獲た。

 ロシアのプーチン大統領思想の指南役アレクサンドル・ドゥーギンが根底に置くのがハイデッガーの存在論だ。《ドゥーギンは、世界を誕生時の混沌に戻すような出来事を、プーチンが起こしてくれることを期待している。・・・(ドゥーギンは)わたしたちの日々の経験を特徴づけるーーそして西洋形而上学の基盤でもあるーー主体/客体の二元性が、個人的にではなく、集団的に解体される状態を達成しようとしている。そうすればハイデガーが呼ぶところの「現存在」(Dasein)、すなわち「ここにいる」という状態に戻れるだろう。これは、西洋の合理主義が「あらゆるものの尺度」として理性的自我を採用する以前の、「この世界に存在する」というわたしたちの直接的体験である。》(ゲイリー・ラックマン『トランプ時代の魔術とオカルトパワー』2020)

 仁二郎にとっての原体験を辿ったのが「にせあぽりや」の世界だった。その世界を木っ端微塵にしたところで、「触手」の世界は開かれた。自我以前の「直接的体験」の世界。自我の肥大化は貨幣経済の行き詰まりと軌を一にする。そこからどう脱するか、世界が模索する。そのたしかな流れをドゥーギンの思想に、そしてプーチンの真摯な演説から感じ取る。

 現状の行き詰まりを打開するには、「直接的体験」に立ち還ること。そのひとつの達成を見せてくれたのが小田仁二郎の文学世界だった。

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