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世界は「債券金融システム」崩壊に向かっている [田中宇]

田中宇の国際ニュース解説会員版。

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債券金融システムの終わり
 【2022年11月17日】1980年代から米英を中心に世界に資金を大量供給してきた「債券金融システム」が終わりにさしかかっている。このシステムは、1972年のニクソンショックによる金本位制の崩壊後の状況を利用して構築され、1980-90年代に開花・拡大した。だが、拡大はバブル膨張でもあり、2000年代になるとバブル崩壊し始め、2000年のIT株バブル崩壊、2007-08年のサブプライムローン危機からリーマン倒産で信用不安を引き起こし、いったんシステム破綻した。その後、米欧日の中央銀行群が造幣した資金で債券を買い支えるQEを開始し、破綻した債券システムを蘇生したように見せかけて延命させた。この延命体制は現在まで続いているが、かなり行き詰まっている。

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長い本文からピックアップしておきます。

①1990年の日本のバブル崩壊、その後の「失われた20年」は、あえて対米従属を選んだ日本の演出(選択)の結果。
②2008年リーマン危機以後の金融システムは、自然の(生きた=人間の暮らしに即した)需給関係から切り離され、QE(金融緩和)という生命維持装置でなんとか生き延びている植物人間状態(死に体)。
③多極化勢力の意図に沿った動きが優勢。
④そもそも「仮想通貨」は「ドルの対抗馬」などではなく、「債権金融システム」が生み出すバブルを吸収する役割でしかなかったことが明らかになりつつある。
⑤金地金が正当な評価に向かうのは必然。

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《米英は、作った資金の一部を使って信用取引で金相場を下落・抑止させた。ニクソン・ショック時の1オンス38ドルから、1980年に800ドルまで高騰した金相場は、その後300-400ドルまで下がり、そのまま2008年のリーマン危機の前までずっと上昇抑止され続けた。1972年まで「資産の王様」「価値の中心」だった金地金は、1990年代以降、古臭い時代遅れの「野蛮な商品」に格下げされた。ドルが勝ち、地金は幽閉された。1970年代まで財政破綻していた英国は、債券金融システムを思いついて米国と一緒に拡大することで、経済の立て直しと、覇権の再獲得の両方を実現した。G7は、債券金融システムで覇権を蘇生した米英を、対米従属を堅持したい日独などが債券買い支えや市場介入で支援する「米英を支える会」風の覇権テコ入れ機関として作られた。G7が発足し、米英が債券金融システムを公式化(金融自由化策の開始)した1985年に、米覇権の蘇生が正式に始まった。/その後、アジアなど新興市場や発展途上諸国に債券金融システムを拡大しようとする動きがあったが、それは1997年のアジア通貨危機などで阻止された。債券金融システムはもともと米英覇権蘇生のために作られたものであり、それがアジアなど(今でいうBRICS諸国)にコピーされていくと、中国などが力をつけ、米英覇権が崩れて世界が多極化しかねない。米英上層部の単独覇権主義者たちは、それを阻止するため1990年代にアジアや中南米で金融危機を起こした。日本の上層部は対米従属が大好きでやめたくなかったので、日本自身が債券金融システムを持たないようにする目的で、1990年代にバブル崩壊を引き起こして金融的に自滅した。日本はその後「失われた20年」を演出し、自国の発展を自ら阻止し続け、対米従属に安住した。》

リーマン危機後、米金融界が全面崩壊をいったん認め、時間をかけて縮小再均衡を試みていたら、リスクプレミアムが再低下して債券金融システムの錬金術が蘇生していたかもしれない。だがその道は採られず、もっと近視眼的な、米連銀など中央銀行群が造幣して債券を買い支えて金利を人為的に引き下げるQE(量的緩和策)が行われた。金利はゼロやマイナスになったが、金融システムは、自然な需給関係が永久に戻らず、QEという生命維持装置によって形だけ生きている植物人間状態(死に体)になった。米欧日のマスコミ権威筋や金融界は、米英覇権主義勢力の傀儡なので、金融システム(金融覇権)が死に体になっていることを報じず、米金融が隆々と蘇生したかのようなウソばかり喧伝する「裸の王様」状態になった。それがリーマン危機後、今日まで15年間続いている。》

金融相場はまだ決定的な崩壊になっていない。大崩壊直前の状態で寸止めされている。長期米国債の金利が5%を大きく越え、ジャンク債の金利が10%を大きく越えて上昇していくと、金利が高止まりして不可逆的な大崩壊を引き起こし、債券金融システムと米金融覇権の終わりになる。大崩壊が今後いつ起きるかはわからないが、大崩壊が起きずに金融システムが蘇生していくことはない。きたるべき大崩壊は、米諜報界(深奥国家)の多極化勢力が意図的に起そうとしてきた動きだ。彼らは、米覇権を崩壊させて覇権構造を多極型に転換するという目的を達成するまで画策し続ける。コロナ超愚策や。ウクライナ戦争(対露制裁の失敗による非米側の台頭)などを見ると、多極派の目的が達成されつつあることがわかる。》

金融システムの周辺部分はすでに崩壊している。たとえば最近、仮想通貨が多くの銘柄で大幅下落し、今後さらに下がると予測されている。仮想通貨は「ドルなど政府管理の通貨に対抗する、政府が介入できない通貨」とされ、ドルの基軸性・覇権が低下するほど仮想通貨の価値が増すと言われてきた。だが実際には今年、QE中毒や長引くインフレ、対露制裁の大失敗などによってドルの基軸性が低下し続けても、ビットコインなど仮想通貨の相場は上がるどころか逆に下がり続けている。仮想通貨の価値の源泉は、ドルへの対抗性でなく、米金融界が債券発行などで作ったバブル資金で仮想通貨を買って相場をつり上げることだったと考えられる。今年、QTと利上げのの連続でバブル資金が急減しているが、これと並行して仮想通貨の価格も下がっている。仮想通貨は結局のところ「ドルの対抗馬」でなく、ドル(債券金融システム)が作った資金で膨張してきた「ドルの傀儡」に過ぎなかった。仮想通貨取引会社FTXの破綻を受け、以前から金融危機を予測してきた経済学者のヌリエル・ルビーニは、仮想通貨はひどく腐敗した存在だと指摘している。》

《きたるべき金融の大崩壊が起こり、債券金融システムが不可逆的に崩れたら、それ以前に存在していた金本位制に戻るのか。金融の「専門家」たちは、そんなことあるわけない、金融システムはニクソンショックで金本位制を捨てた後、規模が大幅に拡大・膨張しており、金地金で支えられるような規模でない、と言ってきた。しかし、金融専門家自身が債券金融システムのバブル膨張を支える詐欺のために存在する傀儡勢力である。金地金についてボロクソに言うことは、専門家の詐欺行為の一つである。中国やロシアなど非米諸国は金地金を買い集めている。非米側は金地金の価値を重視している。そのことと、金本位制の導入とは別物だ。実際にこれから金融大崩壊が起きた後、金本位制に戻るのかどうかはわからない。まず、信用取引を使って金相場が不正に引き下げられている状況を解消せねばならない。それが達成されれば、少なくとも、国際決済や資産備蓄の一つの道具として金地金が使われるようになる。》


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