秋月三名君フォーラムin米沢2022 [上杉鷹山]
江戸中期、米沢藩は深刻な財政赤字にあえいでいた。幕府から封土を減らされ、たび重なる倹約令も焼け石に水。藩の借り入れは実収入の5倍にも達し、利息の支払いにも窮した。
山形県米沢市出身で長く野村総研に努めた加藤国雄さん(76・S39卒)は、金融工学の知識を生かし、米沢藩の財政史を子細に調べた。借金にまみれ、領地を幕府に返上するしかないと思い詰めた前藩主に代わり、登場したのが第9代上杉鷹山である。
まずは漆や桑、楮を100万本植える米沢版「歳入倍増計画」を立てるが、あえなく頓挫。次に藩の支出を半減させ、養蚕と絹織物による殖産振興に乗り出す。武士層を繊維ビジネスに動員することで「米沢織」の名を高め、鷹山は30年かかって財政の健全化を果たす。
「借金残高と税収を比べれば、鷹山が格闘した借金地獄より、いまの日本の財政の方が3倍深刻です」と加藤さん。今年度の国債残高は1千兆円。税収の15倍を超える。鷹山が背負った借財は歳入の5倍だったから、苦しさは3倍というわけだ。
折しも新年度の国の予算案が今週、衆院を通過した。歳出は10年連続で増え続け、過去最大に。抱え込んだ借金残高を国内総生産(GDP)比でみると、日本の債務比率は先進国で最悪の水準という。
名君の誉れ高い鷹山が没して来月で200年。米沢藩の人々より今の私たちの方が財政破綻の淵の近くに立たされているのだろうか。確定申告たけなわのこの時期、一納税者として不安が募る。
2022年2月26日朝日新聞・天声人語より
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米沢藩の財政再建、金融の視点で分析・米沢出身・加藤国雄さん出版「姿勢、今も学べる」
米沢出身で野村総合研究所取締役、大阪経済大教授を務めた加藤国雄さん(76・S39卒)=横浜市=が、「上杉鷹山の財政改革と金主たち~米沢藩の借金・再生史」を自費出版した。深刻な赤字にあえぐ米沢藩を立て直し、名君と名高い9代藩主鷹山の治世を、金融の視点で研究、再評価した。
きっかけは2014年、テレビの歴史番組が「米沢藩の借金は20万両(現在の200億円に相当)あった」と紹介していたこと。キャロライン・ケネディ元駐日大使が「父は鷹山を称賛していた」と発言し、改めて功績に注目が集まっていた頃だった。データに基づき専門の金融面から調べてみようと思い立った。
本書では、金主(大名に金を貸す人)、重臣の竹俣当綱(たけのまたまさつな)、莅戸義政(のぞきよしまさ)らの動きに焦点を当てながら、赤字財政の資金繰りに金主がどのように応じたか、どのような施策で財政を立て直したかといった点を分析。金主への低利化の要請や支出の圧縮、養蚕、絹織物に代表される殖産興業により、借金漬けだった藩が、農民に低利で金を貸し出す「勧農金」という仕組みをつくるまでに再生した過程をまとめた。
鷹山が根本的な改革に臨むに当たり「事前に有力金主からの借金で財政面の手立てを講じたのでは」との見方も披露している。歴史書や論文など40~50ほどの文献に当たり、米沢古文書研究会などの協力も得た。
加藤さんは「民が豊かになることを考えながら財政再建に取り組む米沢藩の姿勢は、今も学ぶことができるのではないか。さらにこの分野を研究する人が出てきてほしい」と話す。22日には、米沢市の伝国の杜で開かれる秋月三名君フォーラムで講演する予定だ。
書籍は2310円。アマゾンやhontoなどのネット書店の他、伝国の杜で購入できる。
2022年10月15日山形新聞より
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