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すめらみこと(鴨居青雲) [神道天行居]

鴨居清雲正恒像.jpgじっくり読みたくて手元に置いていた鴨居正恒先生の文章を書き写しておきます。「古道」今回9月号に掲載なったものですが、初出は昭和41年8月号です。

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すめらみこと
                 鴨居青雲
 お上より命賜はり秋祭り
これはかつて披露したことがあるが、終戦の年にどの新聞であったか雑誌であったかに発表された無名(しつれいながら失念した)の人の作であり、当時これほど痛切に胸をうち、共鳴を覚え、忘れることのできない感動を与へられた句はない。ときどき思ひ出し、終戦記念日を迎へるごとに特に記憶に蘇へってくるのである。ことしも早や二十一回のその日がめぐってくるが、ろくろくとして生きてをることを恥づる思ひに堪へないのである。日本は奇妙な立場で太平ムードなどといはれてゐるが、眼を海外に向ければ米中関係は一触即発の苛烈な様相を呈してゐる。私共は今年を大機の分岐点としてゐるが、それはいつも表明してゐるやうに世界大人類の大難を小難に、小難を無難に防がうとする火消役の任務に服しやうといふ覚悟にかはりはない。今日までの三十六年も悪戦苦闘の連続であったが、今後の三十六年に窮局の念願をこめてをり、とりわけそのうちの七年間をギリギリ不惜身命の場として奮戦健闘を誓ふものである。
 さきごろ雑誌「文芸」の六月号が手に入り三島由紀夫氏の問題作「英霊の声」を読む機会を与へられた。種々の著書に拠って書き上げられたもののやうであるが、最後にその書目が挙げられてある中に先師の「霊学筌蹄」が見出され、前半の文に帰神(かむがかり)の法についてそっくり引用されてゐることには、好感と敬意を表するにやぶさかでないが、扱われてゐる内容については残念ながら賛意を表することができないし、創作の意図が那辺にあるか捕捉するに苦しむものである。英霊といふのは二・二六事件(ことしは三十周年になる)の蹶起将校たちと太平洋戦争に散華した神風特別攻撃隊の若き将兵たちをさしてをり、天皇陛下が戦後人間宣言?をせられたことに対して英霊たちが或る沙庭で霊媒を通じて怨声を放つおもむきを綿々と述べたものである。この霊的現象については審神者(さには)の必要もなくフィクションに対してムキになることもないのであるが、私としては天皇陛下を怨み奉るやうな錯覚を読者に与へるであろうことがガマンならないのである。かくては英霊たちを冒瀆することを遺憾とするのである。かの大楠公も「君を怨み奉る心の湧く時は天照大御神の大御名を唱へ奉れ」と子孫に遺したと伝へられてをるから、私共として君を怨み奉るべきではないといふやうな公式論はいはない。天皇陛下萬歳を三唱して喜んで帰天した英霊たちを敬信しあとに続くことを決意してゐる私共は、戦後ヒューマニズムに名をかって英霊たちを侮辱するやうな傾向がマスコミに顕著になってきたことについて多大の抵抗を感ぜざるをえないのである。
 先師が戦後に詠まれた
 わだつみの声の奥よりおごそかにまことの声も聞こゆなりけり
といふお歌がしみじみと思ひ出されてならないのである。
 ほのかに承はるところでは二・二六事件の将校連が処刑された後の初盆に、宮中では天皇陛下の思召しによりその数だけ岐阜提灯が吊されたさうであるが、そのことは仰せをうけた侍従も後になって思ひ当ったといふほどのひそやかなものであったよしである。帰天すれば霊の活動は自在である。いはんや君国のために身命を擲った栄光に輝く英霊が、どうしてこのやうな至尊のお手厚きお計らひに感動しないであろうか。
 世にいふところの人間宣言の詔勅にしても、これは人間に降られたといふより人間が天皇陛下のところまで引き上げられたものであり、もとより人間であらせられたのであるから同じく神性を有する人間の尊貴性を示されたものである。とかく人間を卑しいものと考へるのがあやまりで、人間は神より出ですべて神のみあれである。元来が天皇とか陛下と申し上げるのは漢語であり、日本語では「すめらみこと」と申し上げることで、われわれお互ひはむかしは一人一人「みこと」であった。命とか尊とかの文字が宛てられるがいづれも漢字であることむろんである。天地を創造した宇宙神の使命を帯びて地上に出現してゐるので「みこと」といふのである。神の御事〈みこと〉を負ひ持つ意義である。この「みこと」を一つに統べ給ふのが「すめらみこと」にまし「すめら」が「すべる」といふ統一の意味であることは申すまでもない。「みこと」は日本人だけに限ることではないので、全人類すべて連帯使命を有すること、むろんのことであらねばならぬ。このゆゑに「すめらみこと」と申すのは上御一人に限ることである。日本人は全人類をも含めて、天皇陛下と本質を一つにする光栄を有すること、この言霊に明々瞭々であるのは賛嘆するにあまりあることである。天照大御神の地上の御表現が天皇陛下にまし、われわれは天上の事を地上にうつすのが全人類の一大使命である。

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